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東京家庭裁判所 昭和40年(家)11057号 審判

本国 アメリカ合衆国ミズリー州 住所 東京都

申立人 チャールス・シイ・コールマン(仮名) 外一名

本国並住所 申立人両名に同じ

事件本人 マドレーヌ・メリイ・コールマン(仮名)

主文

事件本人が申立人チャールス・シイ・コールマンとともにアメリカ合衆国ペンシルバニア州ピッツバーグ一五二三〇所在ピッツバーグ・ナショナル銀行との間に締結した投資信託契約(額面価格三、〇〇〇ドル、一箇月支払額二〇ドル、一五〇箇月支払、インカム・ファンディション・ファンド・インベストメント・プラン第三四〇四七号)を解約し、その清算金の分配を請求し、かつ受領することについて、特別代理人として、本籍熊本県玉名郡○○町大字○○五一番地、住所東京都目黒区上目黒○丁目○○○○番地弁護士山田正を選任する。

理由

一、申立人両名代理人は、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、

1  申立人チャールス・シイ・コールマン(以下申立人コールマンと称する。)は、アメリカ合衆国人で○○○○○(○○紙)のカメラマンをしておるもの、また申立人道子・コールマン(以下、申立人コールマン夫人と称する。)は、日本人で一九五八年一一月二四日右申立人コールマンと婚姻しその妻となつたもの、事件本人は右申立人両名の長女として一九六一年四月六日出生し、アメリカ合衆国の国籍を有するものである。

2  申立人コールマンと事件本人とはアメリカ合衆国ペンシルバニア州ピッツバーグ一五二三〇所在ピッツバーグ・ナショナル銀行との間に投資信託契約(額面価格三、〇〇〇ドル、一箇月支払額二〇ドル、一五〇箇月支払、インカム、ファンディション、アンド、インベストメント・プラン第三四〇四七号)を締結しておるのであるが、今般都合によりこの投資信託契約を解約し、右銀行に対しその清算金の分配を請求し、かつ、受領する必要がある。

3  ところが、法例第二〇条によつて準拠法となる父の本国法であるアメリカ合衆国ミズリー州法によると、自然の後見人である申立人コールマンおよび申立人コールマン夫人が未成年者である事件本人に代わつてかかる投資信託契約の解約並びに清算金の分配の請求および受領をすることは許されず、検認裁判所によつて選任された後見人が未成年者である事件本人に代わつて右行為をすることを要するのであるが、この後見人は日本法における親権者と未成年者の利益が相反する場合における特別代理人にあたるものと考えられるので、事件本人が右行為をするについて特別代理人を選任されたいというにある。

二、よつて、審案するに、本件記録添付の投資信託契約書および完企清算請求書の各写し、アメリカ合衆国領事作成の出生証明書、戸籍謄本並びに申立人両名代理人大谷一郎に対する審問の結果によれば、一の1および2に記載したとおりの事実が認められる。

ところで、右認定事実によれば、申立人コールマン及び事件本人はアメリカ合衆国人であり、申立人コールマン夫人は日本人であつて、本件は渉外事件であるので、まずその裁判権ならびに管轄権について考察すると、申立人両名および事件本人はいずれも東京都内に住所を有していることが認められるので、日本国裁判所が本件について裁判権を有し、かつ、当家庭裁判所が管轄権を有することは明らかである。

次に本件に関する準拠法について考察すると、法例第二〇条により親子間の法律関係は、父の本国法によることになつているので、本件については事件本人の父である申立人コールマンの本国法たるミズリー州法が準拠法となるといわなければならない。ミズリー州検認法(probate Code )第四七五、〇二五条および第四七五、三〇〇条によると、一般に両親は、未成年者に対し自然後見人として同等の権限を有し、共同で未成年者の監護養育を行うのであるが、自然後見人として行動する親に由来しない財産について未成年者が権利を有する場合には親は未成年者に代わつてその財産の管理処分をすることができず、そのため検認裁判所は、第三者をその財産の管理処分について後見人として選任しなければならないし、また自然後見人たる親は、親に由来する財産について未成年者が権利を有する場合には、一般に未成年者に代わつてその財産の管理処分をなしうるのであるが、この場合にも検認裁判所が未成年者の最善の利益を考慮して、親にその財産の管理処分をなさしめないことが必要であると思料する場合には、第三者をその財産の管理処分について後見人として選任することができるとされている。

そうすると本件投資信託契約に基づく事件本人の権利は、親である申立人コールマンに由来する財産に関する権利であるので、一般に自然後見人である申立人両名が事件本人に代わつてその管理処分をなしうると解されるが、本件記録添付の完全清算要求書の写しおよび申立人両名代理人大谷一郎に対する審問の結果によれば、申立人コールマンは、一九六五年六月二二日付の完全清算要求書によつて前記ピッツバーグ・ナショナル銀行に対し自己および事件本人が締結している前記投資信託契約を解約し、その清算金の分配を請求したところ、右銀行からかかる未成年者の重要な財産についての管理処分行為は判例法上自然後見人である親をして行わせず、検認裁判所が選任する後見人に行わせる必要があるものとされているから、後見人を選任のうえ、諸求されたいとの回答があつたことが認められ、準拠法であるミズリー州検認法による限り、本件における投資信託契約を解約し、その清算金の分配を請求し、かつ、受領する行為については、後見人の選任を要するものといわなければならない。

しかしながら、日本国民法においては、かかる場合に後見人を選任することを認めず、したがつて、また、家庭裁判所は、家事審判法によつて、かかる場合に後見人を選任する権限を有していない。このように、他国の実体法が準拠法となる場合に、自国の実体法との相違により、裁判所がこれを適用実現する手続法上の権能を有していないとき、どのように対処すべきかは、国際法上極めて困難な問題である。当裁判所は、かかる場合にはその有する手続法上の権能のうちで他国の実体法を適用実現する手続法上の権能と類似するものがあれば、その権能によつて他国の実体法を適用実現するほかないものと解する。かかる見地から、本件をみると、ミズリー州検認法における自然の後見人としての親の権限を制限する後見人選任の制度は、日本民法における親権者と未成年者との利益が相反する場合に親権を制限する特別代理人選任の制度に類似する点から、ミズリー州検認裁判所の有する後見人選任の権能は、わが国家庭裁判所の有する特別代理人選任の権能に類似するものと考えられるので、本件の場合には、特別代理人選任の権能によつて、ミズリー州検認法を適用実現することとし、したがつて事件本人が、申立人コールマンとともに締結した前記投資信託契約を解約し、その清算金の分配を請求し、かつ、受領する行為につき、特別代理人を選任すべきものと解する。

よつて、本件申立は理由があるので主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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